椅子を見ると
座りたくなる

座る必要のない時は
椅子を見ても
景色の一部であり
椅子があることに気付かないこともある

椅子の足が抜け落ちそうでガタガタしていても
椅子に座る必要もなければ
直しはしないが
椅子に座りたければ
椅子の足が外れないようにはめ直したりする

椅子と同じように
言葉も
右から左へ聴かれることなく抜けてゆく言葉もあれば
良く聞き取り
間違いがあればそれを正してもらえる言葉もある

椅子には歴史がある
椅子の部品が木材から切り出され
加工され
組み立てられ
使われ
手直しされながら使われ
使われなくなると
直されず
壊れてゆく

言葉にも同じような歴史がある

音や形が組み合わされ
言葉として使われ
誤りがあれば正確な用法に手直しされながら
使われ
使われなくなると
次第に消えてゆく

このような
使用による歴史が
椅子や
言葉の世界を維持している

使用や修正を重ねながら
一連のものとして世界が維持されている

ひとりひとりの人が
外の世界にある椅子や言葉に反応し
椅子の世界や
言葉の世界を維持している

ひとりひとりが反応して
みんなで共通の世界を維持している

ひとりひとりが
世界を取り込みながら反応している
より頻繁に
より長い歴史の中で
使用され続ける椅子や言葉もあれば
そうならず
短命に終わる椅子や言葉もある

壊れ消えてゆく
椅子や言葉が
使用の中で修正され維持されてゆくために注がれる
様々な努力が世界を維持している

反応の連鎖としての動きがなくなれば
消えてしまう
そんな儚い世界が維持されていることが
不思議で素晴らしい命の営みだ