DNAは
タンパク質のアミノ酸配列について
「かくあるべし」を誘導する触媒だ

同じセット触媒の中で
インスリンのアミノ酸配列と
インスリンリセプターのアミノ酸配列が
「かくあるべし」と規定されているので
インスリンとそのリセプターは
うまく結合できるようになっているらしい

うまく結合しないような組み合わせでは
インスリンも
そのリセプターも
その機能を発揮できないから
無駄な存在となってしまう

無駄な存在が排除され
うまく機能し合える組み合わせが
結果として
同じセットの触媒の中で共進化してきた
というのが
ダーウィンの進化論の説明だ

インスリンリセプターに
インスリンが結合すると
このリセプターは活性化され
細胞内の酵素をリン酸化して
その酵素が機能するように活性化させる
その酵素がまた別の酵素をリン酸化して
その酵素が機能するように活性化させる

このような
リン酸化のカスケード反応も
同じセットの中の触媒が用意している

様々な触媒反応が
滝のように流れ
生命活動が進行している

右手で感じる石の重みを
意識が認識するのも
様々な触媒反応の連鎖の賜物だ

意識が感じる意志の重みが
別の意志に変換してゆくのも
触媒反応のカスケード反応だ

このようなカスケード反応が
いたずらに起こってしまうと
痛くないはずの腰が痛んだり
切断してないはずの足に痛みを感じたりする

身体は
目には見えない小さな細胞の塊だ

この細胞の一つ一つに
同じ情報が埋め込まれ
それが触媒となり様々な生化学反応を誘導している

この情報の共有が
身体の協調性を演出している

私の右手と左手は
この共有された情報の触媒作用により
連なっている

新聞をめくる時も
右手と左手は互いに直接触れ合わずとも
商法の触媒を通じて
接触しているから
うまく新聞をめくることができている

右手と左手の協調ほど
複雑で繊細なものではないけれど
交差点での車両運行も
情報の触媒により
スムーズに交通整理がなされている

情報の共有が
世界を広げるのだ

協調の中で世界を広げるのだ

そんな世界の中で
正義が
人々の営みを制御している

正義には
自身に向かう自制的側面と
自身以外に向かう攻撃的側面がある

自制的な正義は道徳的にふるまうが
攻撃的な正義は武器となり
モラルハラスメントを引き起こすこともある

それでも
道徳であろう武器であろうと
向かう先は人間だ

人間同士の間の調和に寄与している

大きな情報の触媒セットでは
あなたも私も
同じに扱われているから
私の身になって
公平を考えてくれることはないのだろう

このことに私はさみしさを感じる

さみしいことだが
そのさみしさを感じるのも
人類という大きな調和を保つための
ひとつの触媒なのだろう

自他の区別のない世界の調和の中で
自己を認識しながら
生きてゆくより仕方がない