予定と実践:割れ鍋に綴じ蓋という協調関係
空気の中で
酸素分子や
二酸化炭素分子
窒素分子がぶつかり合っている
温度が高いと
このぶつかり合いの頻度も大会らしい
ところで
私の感覚では
温度を感じることはできるが
分子の衝突は認識できない
*
視覚障碍者は
光を見ることが出来ない
けれど
光の暖かさを感じることはできる
温度を感じられるけれど
分子の衝突を感知できないように
視覚だけでは
光の全てを把握できるようにはできてはいない
*
視神経に分布するロドプシンというたんぱく質は
光が当たると変形し
その変形が神経細胞の興奮を誘導する
このような機能を持つロドプシンは
光を知覚する機構の重要な一翼を担っている
光には
ロドプシンを変形させる性質があり
ロドプシンには
光が当たると変形する性質があるのである
光とロドプシンは
割れ鍋に綴じ蓋の関係にあるらしい
ところで
どちらが割れ豚で
どちらが綴じ蓋だろう
ロドプシンの遺伝子配列の異常により
光に反応して変形しないロドプシンしか生合成できないと
光を感知できないということになる
光が普遍であり
ロドプシンはその光に適応して
はじめて機能しているのである
光が破れ鍋であり
その破れ鍋にあうように
ロドプシンという綴じ蓋が工夫されているのである
*
生命は
綴じ蓋の工夫からできているらしい
ホルモンとそのレセプターの関係は
どちらも綴じ蓋であり破れ鍋と評価できよう
共進化は
綴じ蓋を工夫し合う破れ鍋同士の協調関係なのである
*
会話は
様々な個性的でいびつな音と
それを聞く耳から成り立っているところがある
異国の言葉は
壊れ切った鍋のように聞こえるけれど
耳慣れた言葉は
きちんと整った青磁の壺の様な美しさを感じる
この耳は
共進化してきた
光に変形するロドプシンの様な綴じ蓋なのである
温度を感じることはできるけれど
分子の衝突を知覚できない
相性の良い破れ鍋にしか反応できない綴じ蓋なのである