マイクロチップに
私の名前を書いて
私の生年月日を書いて
趣味を書いて
履歴を書いて
貯蓄額を書いて
負債額を書いて

収入を書いて
支出を書いて

病歴を書いて
薬歴を含む治療歴を書き

そのほか
沢山の感情や思い出を書き込み
私の腹に埋め込む

そして
マイクロチップに日々起きた様々なことを
書き加えてゆくと
私の一生ができあがる

誰かが
このマイクロチップに興味を示してくれぬだろうか？
できれば
税務署職員でない誰かがいい

願わくば
誰かが
このマイクロチップを拾い上げ
自分の腹に埋めてくれぬだろうか？
そうすれば
私の人生が引き継がれる

マイクロチップが引き継がれ
私の人生の思い出や実績が
貯蓄や負債とともに引き継がれてゆく

マイクロチップは
通算して何歳まで受け継がれてゆけるだろうか？
マイクロチップの生存競争だ

そうなれば
私の一生は
私だけのものではなくなる

私はやがて
私を残し
私を離れてゆくのだ

＊

残念なことに
現実には
さしたる資産も実績もない

それでも
生きてきた

その痕跡が残るとすればなんだろう？

こんな無用なことを考えるのは
もうよそうじゃあないか

だからせめて
今日を承継する明日がやってくる
それだけで十分だ
そう思えるようにしてくれる
マイクロチップを
私の頭の中に
埋め込んでもらえはしないだろうか