具象と抽象:同じでいながらに変わってゆく運命
同じミヤマカラスアゲハであっても
オスとメスとで
その表現型が異なっている
同じオスでも
春型と夏型とでも
その表現型が異なっている
地域による表現型の違いもあるだろう
羽化したばかりのみずみずしい個体と
羽根がボロボロになった個体とでも
その見た目は違ったものになっている
それでも
皆同じミヤマカラスアゲハである
個々の個体の具象的な個性と
主としての抽象的な同一性は
同時に存在しているのである
この同時性において
抽象はミヤマカラスアゲハ全てに覆いかぶさり
具象は個々のミヤマカラスアゲハに限定されている
もっといえば
抽象は
卵から幼虫そして蛹さらには成虫という
全変態期間を通じてミヤマカラスアゲハであるところ
卵という具象は卵の器官の限定品であり
幼虫も蛹も成虫も
それぞれの器官の限定品である
このように
具象は
時間と空間で区切られたところに存在し
抽象は
時間も空間も超越して存在しているのである
この時空を超越した抽象がそんざいすることで
雌雄の出会いもあり
縄張り争いがあり
生活環の円環の維持もあるのである
その場限りの具象と
永遠の中を循環する抽象が
ミヤマカラスアゲハの個体の中で
行き来しながら生命を紡いでいるのである
その場限りの具象だけではわからない合目的性が
抽象的全体の中で
それぞれの具象の持つ目的と義務が明確になってゆく
同じでいなければならない
それでいて
違っていかなければ命を紡げない
こうした葛藤をくりかえしながら
蛹の殻を破り
ミヤマカラスアゲハは大空に飛び立つのだろう