再現能力:シクラメンが崇める神を私は知らない
昨年の冬
白い縁取りのあるピンク色の花を咲かせていた
鉢植えのシクラメンが
夏
全ての葉を落としてしまった
もうだめかと思っていたけれど
水をやり続けていると
小さな芽が生え始め
白いまだらの入った深緑の葉を広げた
今年の冬も
きっと
この鉢のシクラメンは
白い縁取りのあるピンク色の花を咲かせてくれるだろう
昨年とは物質的には異なる花には違いないけれど
昨年と同じ花を見せてくれるのである
今年咲くであろうはずに花は
昨年咲いた花を見ることはない
それでも
まるで同じ模造のような花を咲かせるだろう
瓜二つ
シクラメンばかりではない
夏の積乱雲
秋の鰯雲
同じような経過をたどり
同じものが現れ消えてゆく
この帰納法的世界の裏で
幾重にも重なった
たくさんの現象が再現されている
目には見えない摂理に則り
たくさんの現象が再現されている
人の目に映る表舞台の裏側で
あるいは縁の下で
様々な現象が
表舞台を支えている
鉢植えの中のシクラメンの球根のなかで
何が起こっているのか
私には見ることはできないけれど
それを見ることで
なぜ毎年同じ葉を開き
毎年同じ花を咲かせるのかを
知ることもできるだろう
知の探究は
見えていないものを見えるようにする努力の上に成り立つ
そして
見えて来たものを応用して
再現できるようにと
同じことを繰り返す努力を重ね合わせてゆく
見えている現象が多いほどに
表舞台の精度も上がってゆくだろう
目は
何かを見せるために
別の何かを見つめ続けてきた
全ての細部に神が宿っているならば
神はすべての摂理を知っているに違いない
わたしの目は
シクラメンの花を見つめることはできるのだけれど
シクラメンの花ほどには
シクラメンの球根を知ることはないだろう
もし知ることが出来るなら
私の頭の上にも
白い縁取りのあるピンク色の花を咲かせることができるだろう