ルアーなお金たち、言葉たち、命たち

砂上の楼閣を上手に維持する共役反応の数々に感謝です。ルアーは反応の連鎖の象徴です。

無知を生きる


公園の樹で
リスが遊んでいた


とてもかわいいので
「こちらにおいで」と
声をかけたのだけれど
いっこうにこちらに来てくれない


私は
そうなることを知っていた
なぜかというと
リスは
言葉を解さないばかりではなく
私の優しい気持ちを理解しない無知だからだ


誰もが知っている事実だ


いくら優しい気持ちがあっても
人間の言葉を解さない相手に
人間の言葉で口説いても口説けるはずがない


それでも
愚かにも
「こちらにおいで」と声をかけてしまう


この愚かさが
やがて
賢さに連なるだろう



行ったことのない山の向こうに
何があるのかわからない


水平線の向こうには
何が待っているのかわからない


無知の世界は
既知の世界より恐ろしいけれど
既知の世界にはない魅力を感じる


だから
子供のころは
なんとなく未知の世界に憧れる


でも
大人になると
既知の世界にどっぷりつかり
愚かなことをしなくなる


未知の世界を忌避してしまうのだ



未来は未知の世界だ


未知の世界が恐ろしければ
そこへ行かずに既知の世界に留まればよいのだけれど
未来という未知の世界は
否応なくやって来るから厄介だ


だからだろうか
愚かな未来が来ないようにと
願ってみたりする


無知の癖に祈ってみる
いや
無知だから祈ってみせる



さまざまに
未知の世界が広がっている


リスが何を考えているかわからないし
隣にいる人も
何か立派にしゃべっているけれど
それとは裏腹に何か別のことを考えているかもしれない


星も向こうや
新海の奥底に何が起こっているのかも知らない


自分の体の中で何が起こっているのかさえも知らないから
病気になると慌てふためく


とてもたくさん知らないことがあるのに
そんなことを忘れ
不安にならずに過ごしている


なんとも平和だ


知らない
知らないと
不安ばかりを募らせていると
心がすさむ


それでも
誰かが知っていることを
私が知らないということになると
とても面白くない


どこか不公平に思い
知っていることを増やしたくなる


この気持ちが
知っているふりをさせてしまったりする


未来を予測し
それが当たったりしたものなら
鼻高々だ



公園の樹にリスがいた


リスは私の優しい気持ちを知りもせず
木の実を運んでいた


リスは素直に
無知を生きている


無知を着飾ることもなく
知らぬものを無視し
知らぬものを信用せずに
素直に
無知を生きている


リスも
無知を着飾ることを覚えたら
懸命に物事を観察し考えて
少しでも予定通りの未来をもたらすために
皆で協力することもできるのだろう


そして
素敵な文化を創り
その文化を信用し
その文化に従いながらで生きてゆくこともできるのだろう


それを拒絶するかのように
素直に
無知を生きている


知を着飾らず
寒かろうと
暑かろうと
雨が降ろうが
知を着飾ることもなく
公園の樹を
あちらへと
こちらへと走り抜けてゆく


人間が知を着飾り生きているよりも
はるかに永く
あちら
こちらへと走り続けているのだろう

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