予定と実践:過去を未来に運ぶということ
タンポポの種は
その中に未来を宿している
しかも
その未来は過去からの遺産である
こうして
時間と共に変わりゆく世界の中で
タンポポはタンポポを維持している
このように
生命には
自己を保持する能力がある
言い換えると
過去を再現する能力である
記憶も
過去を再現する能力であるが
物質的過去を再現するのではない
生命は
物質的過去と
情報的過去を関連付けながら
過去を
物質と情報の間で循環させながら
過去を維持し
未来に伝えている
タンポポの種の中には
タンポポの葉や花は物質として存在していないが
タンポポの葉や花の情報が存在している
タンポポの内部において
物質は情報なくして秩序化されず
物質なくして情報は保持されないという
物質と情報の相補的な関係が存在し
進化の歴史において
両者の間で共進化してきたのであろう
両者の間には確固とした調和の関係に熟成されている
イソギンチャクとクマノミが
ある時は助け
ある時は助けられ命をつないでいるように
情報と物質の間でも
助け助けられながら
過去を未来に紡いでいるのである
こうした共進化の中で
タンポポの葉の情報と
タンポポの葉の物質とを
相同として扱うシステムが構築されて来た
絵に描いた餅と
本物の餅を同じものとするシステムである
見たものと
見られたを同じものとするシステムであり
他者に知覚された私と
私そのものを同じにしてしまうシステムである
このようなシステムにより
私も未来に運ばれ
私の過去が
未来において
私を悩ますことにもなる
他者の記憶の中の私は私ではないといくら主張してみても
他者の記憶の中の私が独り歩きしているのである
共進化する余地もなく
他者の中で独り歩きしてきた私の幻影にさえ
私は
淘汰圧をかけられ
時に
なすすべもなく降伏しなければならないのである
このような不条理かつ不自由の環境の中で
過去は未来へと引き継がれてゆく