桜の葉を食べ尽くした
アメリカシロヒトリの幼虫が
私の家の壁をはい回る
今年もそんな季節がやってきた
懸命にはい回る幼虫を
私は
容赦なく二つに切る
砂利の中から
包丁のような平たく鋭い石を選び
それをナイフのように使って
幼虫を切る
切れ味の良い石もあれば
切れ味が悪く
潰すようになってしまう石もある
斬られたアメリカシロヒトリの幼虫にしてみれば
なんとも悲しい出来事なのであるが
アメリカシロヒトリ全体にしてみれば
何百何千何万匹の幼虫のうち数匹が死んでも
なんてことはないのだろう
斬っても斬っても
毎年のように
我が家の壁に
アメリカシロヒトリの幼虫が進軍してくる
大多数の幼虫の死が
アメリカシロヒトリにとっては
折り込み済みになっているのである
さて
それはそれとして
砂利の中には
切れ味の良いと
切れ味の悪い石が交じり合っている
前歯のような石は切れ味がよく
奥歯のような石は切れ味が悪く
幼虫を切ろうとしても押しつぶすことになる
だから
私は見た目で前歯のような石を選び取り
幼虫を切ることにしている
幼虫の体内の緑の液体が
壁につかないからである
用途に適した形の石を見た目で選ぶことが出来る能力が
人間には備わっているのである
ところで
人間の前歯は
誰が用途を考え
だらがそれを選んだのだろう
食べ物をかみ切るのに便利であるという
目的因的理由と
卵子が発生し赤子となり
成長し子供となる過程の
様々な誘導による形態形成の一環として
前歯が生えるという
作用因的理由が
人間の口の前面に生えている理由として
考えられる
私のナイフのような石を選ぶ理由も
目的因的理由と
石を見てその機能を類推する
作用因的理由が考えられる
そして
この二つの原因は
私の経験にもとづく
私の思考により結び付けられている
ナイフのような前歯が生えていることについて
目的因と形成因が
うまく連なっているのも
経験に基づくものだろう
遺伝に蓄積されて来た経験に基づくものに違いない
アリストテレスの4原因説の
質料因
形相因
作用因
目的因
これらが
ひとつとなり
様々な現象が循環している
人間は
4原因を
経験と思考から結び合わせ
生命は
4原因を
遺伝的経験から
淘汰選択して結び合わせているのである
人間の過去へ向かう目が
原因を4つに還元し
4原因説が唱えられ
伝承されているのではあるが
それは
この4つの原因が
今存在する存在において
調和的に統合されているからに他ならない
人工物においては
人間の英知が統合させており
生命においては
遺伝子が統合させている
調和的に統合された存在が選べれ
調和しなかった存在が淘汰され
4つの原因が
結果としてうまくかみ合っているのである
こうした淘汰選択により
試されて来た頻度が高いほど
統合は調和的に進み
頻度が低ければ
統合の調和は
まだまだ未熟なところがあるということになろう
AIが学習を繰り返すほどに
試したことを蓄積し
上手くいかないこと
上手くいったことをえり分け
高度な予測性を獲得してゆく
このベイズの定理は
自然選択の原理に基づく学習ということが出来るだろう
遺伝子も
人類も
たくさんの経験を蓄積させてきた
蓄積する機構が
進化を育てているのである