徴候と憶測:未知の世界
リンゴは
様々な分子からできていて
その分子は原子が結合したもので
原子は原子核と電子からできていて
これらは素粒子が組成している
目の前にあるリンゴも
このような構造を維持しているらしい
でも
肉眼では
分子も原子も電子も原子核も見えない
ましてや素粒子なんか見えはしない
リンゴしか見えない
見る側の能力が作り出す徴を見ているだけである
科学者たちが見ている世界も
彼らの見る能力の中で世界を描いているだけだ
だから
未知の世界が存在している
見る能力の外にある未知の世界だ
通常
私は
リンゴを見ると
それを構成する素粒子たちを想像することなく
その味を想像する
食べたことのない果物を見ると
どんな味がするのだろう?
と
想像する
私の頭の中に
その果物の素粒子の幻影ではなく
その果物の味の幻影を残したいのだ
この私の希望は
私の奥底に埋め込まれているものらしい
そんな奥底にある希望に沿って
私の目や鼻や手や足が動き出す
そして
その果物を私の腹の中に入れ
その果物の素粒子を観察する機会を失っってゆく
腹の中に全体を取り込んでも
その果物の部分しか頭の中には入らない
こうして
未知の世界は残され続ける
能力のないことが
興味のないことが
未知の世界として残されつづける