トリプルワールド96
イデアは静止した永遠不滅の存在らしい
*
「歩く」という言葉がある
この言葉は
歩かずに静止している
静止している「歩く」という文字を見ていると
「歩く」が
永遠に続いてゆく
「生きる」という言葉も
「歩く」と一緒に静止して
一緒に続いてゆく
「歩く」も「生きる」も
動かない
だから
歩くのをやめても
生きることが終わっても
過去のままで
今の状態にはならない
言葉を動かさないと
今の状態には追いつけないということだ
今に追いついて
未来へと追い越してゆくために
言葉を動かしてゆく
*
文字の世界が
物質の世界と
併存している
それぞれが
刺激となり
反応しては
世界が
併存している
並存せず
刺激も与えず
反応もしない世界は
他の世界に気づかれない
そんな世界が
地球の果てはあるのだろう
未知の生き物が
そこにあり
ひっそり静かに
自分たちの世界を広げている
ガラパゴスよりも
きっと個性的に
独自の世界を拡げている
*
「人間」というイデアがあって
「猫」というイデアがあって
「三葉虫」というイデアがあって
生きていても
死んでいても
絶滅していても
辞書に載っている
今の状態に言葉を合わせるには
絶滅してしまった「三葉虫」を
辞書から消さなくてはならないだろう
「人間」という言葉も
数個しか掲載されていない
「三葉虫」という言葉や
「人間」という言葉や
「猫」という言葉を
生きている数に動かすのは
辞書の仕事ではない
言葉の仕事は
永遠不変を演じることなのだろう
動かすのは人間の役割だ