現象と構造:仕込まれている連鎖と連帯
現象が規則的に連なり
構造を維持している
イモリの初期発生において
原口が陥入すると
陥入した原口背唇部が
外胚葉を刺激して脊索を誘導する
オスがメスを見つけると
求婚ダンスを始めるように
原口背唇部に刺激された外胚葉細胞たちは
脊索を形成するようになる
求婚ダンスも
原索の誘導も
すでに仕込まれている現象を実践するのであり
純然と新たなことを始めるのではない
思考にも同じことが言え
仕込まれている何かにより
同じ状況に置かれると
誰も彼も同じようなことを考えたりする
同じ言葉を聞くと
同じような意味を想起するのも
言葉と意味の関係を
仕込まれているからだ
iPS細胞は
分化万能性があると言われている
角膜や心筋など
様々な細胞に分化できるからだ
iPS細胞には
様々な細胞に分化する能力が
仕込まれているということだ
iPS細胞への刺激の加え方を変えると
別の細胞へと分化する
思考も
様々なレパートリーとして仕込まれており
刺激次第で
別々のレパートリーが現出する
感情も同じだ
仕込まれていない感情を味わうことはできない
語り得ぬものに対しては
沈黙しなければならないようなものだ
人間のiPS細胞が
イモリのiPS細胞にはなれないのと同じことだ
仕込まれている現象が
連鎖し
連帯し
秩序が維持されている
この連帯と連鎖に混乱をもたらす現象は
排除されないと
秩序維持が困難にさらされる
iPS細胞の培養において
病原菌などは排除される
誤用される言葉も
排除の対象となる
不適切な思想も
同じ運命をたどる
養老孟子氏のいう「バカの壁」が出来上がる
「バカの壁」は知的免疫作用と言えるのだろう
「バカの壁」が低すぎると
秩序は崩壊する
かといって
高すぎると融通が利かなくなる
人間の「バカの壁」が高くなり
他の生き物が排除され
地上が人間だけのものになると
人間は人間としか争えなくなるのだから
なんとも殺伐として世界になってしまいそうだ
蛇は嫌なもので
いなくなれば良いと思うのだけれど
蛇は蛇なりに
自らの仕込まれた秩序を維持しているのだから
彼らなりに立派な尊厳もあるのだろう
「バカの壁」を
意識的に下げなければならないこともあるのだろう
『星の王子さま』のはじまりとおしまいに
蛇が出てこなければ
それはそれでつまらない