脱中心化:魔法陣の世界への脱中心化
鏡には魔力があるらしい
肉体である私を中心に据えると
鏡に映った私は偽物だ
しかし
いつの間にか
そんな偽物を
本物の私として眺めてしまう
こうして眺めている間
私の中心は鏡の中の私に移行する
*
もっともっと若々しいはずだと思っている私が
鏡の中ですっかり猫背になった私を眺めて
「えっ!こんなに老けたんだ」と驚いたりすることがある
私の意識の中にある私と
鏡の中にある私は
どちらが本物なのだろう?
意識の中の私は
肉体の私から
切り離されているのだろうか?
鏡の中の私よりも
肉体の私より遠いところにあるのだろうか?
肉体の私
鏡の中の私
意識の中の私
3人の私が
互いに円環的に
見つめ合い
予定調和を模索し合っている
*
言葉にも魔力があるらしい
人様が言葉で描いた私は
鏡に映った私の姿によく似ている
「そうか。私はそう見えるのか」と
私を描いた誰かの言葉をかみしめる
*
言葉で描かれた私は
偽物の私だけれど
本物の私よりも存在感がある時がある
私の中心が
私の中心から離れて
言葉の中へと落ち込んでゆく
*
人には
魔力に踊らされる才能があるようだ
鏡の中の私や
言葉の中の私が
本物の私に魔法をかけて
私を踊らせる
楽しい踊り
悲しい踊り
うれしい踊り
様々な踊りを
魔法陣の中で踊り続け
疲れ果て
やがて眠りにつくのだろう
そして
夢の中でもまた
様々な魔法陣の花が咲き乱れ
「ああ、夢で良かった」
「ああ、夢だったのか」などとつぶやきながら眠りから覚めたりする
そして
本物の私に戻ったかのように感じながら
気が向けば
鏡に映った私に
「おはよう。また会えましたね」と
他人行儀に挨拶を交わしてみたりする