欲望を前に
自由を失う

欲望を持つものも
欲望に曝されるものも
共に自由を失い
欲望に巻き込まれる

あれを食べたいと思うと
他のものではなく
あれを欲する

他のものを欲する自由がなくなる
ということだ

恋も自由を失わせる

あの人でなければならないからだ

こうした
欲する側の不自由は
自らまいた種であるが
欲せられる側の不自由は
降りかかってきた不自由だ

この不自由のなかで
生きてゆかなければならないから
この不自由をどうにかしたいと欲するようになる

この欲することで
自らを束縛し
周囲にも不自由を拡散することになる

助けを求めるのも
不自由の拡散の一つだ

過激な欲求を
予め予防しようとするのも
不自由の拡散だ

法律や道徳は
自由を制限する不自由だ

この不自由により
理不尽に欲望に曝されて生じる不自由を
なくそうとする不自由だ

不自由により不自由を制する

毒をもって毒を制するようなものだ

健康のために毒を塗る様に
自由のために不自由の網を広げているのだ

争いを避けるがゆえに
背負わなければならない不自由がある

戦争をしたくないがゆえに
背負う不自由がある

文明や理性の名の下で
正義や常識を背負い生きている

欲望の充足や
福音を求めながらも
不自由を背負い生きている

このような努力をしていても
平穏が崩れることがある

欲望と秩序のバランスは
崩れながら維持されている動的なものだから
仕方ない

欲望と健康のバランスと同じように
崩れ始めないと
その大切さにを気付きにくいものだから
崩れてしまうのもやむを得ないところがある